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2001.7.5

 コブシの木は、「子供の木工教室の材料として最適の硬さ」という話

 梅雨が明ければ本格的な夏。待ちに待った夏休み。工作したり 絵を描いたり 昆虫採集したりする。夏休みはそういうことになっています。
 例えば工作。ノコギリで木を切ったり クギと金槌をつかって木を組み立てる。イメージは、どんどん膨らんでナイフで形を削りだしたり 彫刻刀で動物を彫ったり もう何でも出来る気がしてきて、ワクワクする。どこかにいらない木がなかったかな。どこかにノコギリをおいてなかったっけ。と計画もなく 取りあえず、木を切り始めたくなる。みんな そうだったでしょ。

 あのー。話が違うんですが、この話は、ちょっと長くなりそうです。このまま読み続ける方で、インターネットが常時接続でない方は、一旦接続を切った方がいいと思います。5分7分はすぐに経ってしまいますから。  
 
さて、そう思ってあたりを捜してみると 幸か不幸か 木とノコギリが物置からヒョッコリと顔を出す。気持ちは、切りたくてウズウズしているから どこをどう切るとか そのノコギリが切れるかどうかなんてことは、考える余裕がない。片手に木を もう片方の手にノコギリを持ち とにかくその木を切ってみる。ところがノコギリを動かすと木がいっしょに動いて 切るどころではない。「それならば」と 今度は 木を足で踏んづけてやってみる。するとどうだ。切れる切れる。いい感じに動き出したぞ。
 「なんだ。思っていた以上に切れるじゃないの。」と思いながら 汗が出ていることも忘れて熱中しているうちに ノコギリは3cmほど木の中に入ってくる。切り始めは、スイスイと動いていたノコギリが「ヨイショ、ヨイショ」とかけ声を掛けたくなるほど動きが鈍くなってくる。そしてついに4cmほどのところで ギギギっとブレーキをかけたように止まってしまう。「あれれ。何で止まるんだよ!それに曲がっちゃったじゃはいか。それで動かなくなってしまったのかな。ちょっと後戻りすれば まっすぐ切れないかなあ。」などと試行錯誤した後、切り口が曲がり始めたあたりへノコギリを戻し、曲がった方と反対側の方へノコギリを傾けて動かしてみる。「あ、動いた動いた。」と一安心して1cmも進むと今度は、さっきとは反対の方へ曲がってノコギリがギギギッと止まる。木の上に汗がポタポタッと落ちる。
「暑いなあ。なんで切れないんだよ!」と腹が立ってくる。
 「よし。もう一度 別の場所でやり直し。今度は、まっすぐ切るように気をつけよう。そうすればきっと最後まで切れるはず。」そう心に誓ってスタートする。そして 今度も4cmのところで ノコギリにギギギッとブレーキがかかる。切り口がカーブして ノコギリの刃が切り口のカーブと同じようにグネッと曲がっている。しかし、切っている本人は、頭に来ているから そんなことは、目に入らない。「まっすぐ切ってるだろ!。なんでここでとまるんだよ!。信号でもついてんのか?信号ならさっさと青になりやがれ!。こんちくしょー!。」といって ノコギリもろとも木をぶん投げてしまう。工作なんか大嫌いだ。

 こんなふうにノコギリが止まってしまうのには、いくつかの原因がある。
  その1、ノコギリが悪い。
  その2、木を固定していない。
  その3、切る姿勢が悪い。
  その4、体力がない。
 
その5、木が硬い。  
 
  さてこれらの原因のうち、1から4が解決すれば、5の木の堅さは、それほど問題にはならないのですが、そのためには、ちょっと訓練が必要です。もし、その木が「バルサ材」(バルサの木とは、南米エクアドルでとれる世界で一番軽く、柔らかな天然の木です。成長も早く 5〜8年で30〜40mの高さの木になります。)のように柔らかな木なら 1から4の原因は、あまり問題になりません。
 だから木工作において木の硬さは、重要な要素です。そしてノコギリ以上にその硬さが問題になってくるの は、ナイフや彫刻刀を使うときではないでしょうか。  
  例えば、小学3年生が オルファクラフトナイフや肥後の守ナイフで鉛筆を削る。子供達には、削る時の鉛筆の持ち方、ナイフの持ち方、ナイフや鉛筆の動かし方を、目の前で実演したり、図にかいて説明しておく。 「さあ、削ってごらん。」といって始めてみると、CMの井上揚水のようにはいかないまでも、みんな個性的な形に削っている。
 なぜそんなに簡単に削れるのでしょうか。それは、鉛筆の木が柔らかいからです。ちなみに三菱鉛筆の木は、北米産のインセンス・シダー(ひのきの一種)が使われています。もし、ナイフの扱い方や 削り方をいくら熟練していても、その木がナラやカシだったら 途端に削りにくくなるはずです。
 だから鉛筆が削れるのと同じように 木や枝が削れれば、きっとナイフを使うことが楽しくなるはずです。そうすれば 形を作っている途中に削れないといって投げ出さずに済みます。そんな鉛筆と同じような柔らかさの木は、ないものか?。

 1999年の春、私は鉛筆と同じような柔らかさの木を捜していました。その夏行川アイランドで開催された子供木工教室の材料を準備するためです。木工教室の内容は、「木の幹や枝をノコギリで切ったり、ナイフや彫刻刀で削って、昆虫を作る。」というものです。対称は、小学3年生以上。
  まずは、サンプルを作りました。身近にあった木の幹や枝を オルファクラフトナイフで削ってみる。ケヤキ、真弓、ナラ、金木犀、ツツジ、椿など 春先に剪定された枝や細い幹を かたっぱしから削ってみた。太い幹ならともかく、細い幹や枝ならどんな木でも 簡単に削れるのではないかと高をくくっていました。ところが実際には、殆どの木が結構硬いのです。杉やひのきに至っては、枝の方が硬いぐらいだったのです。
 さて、困ったぞ。軽トラ1杯分くらいの量があって、細い枝から10cmぐらいの太さの幹まで揃っている剪定された枝。しかも柔らかい。どこの造園屋さんでも季節柄ケヤキの枝を剪定していましたが、ケヤキではちょっと硬すぎます。あっちの造園屋こっちの造園屋と 木を手入れする業者さんを訊ねて回りました。そしてついに、畑の真ん中に山積みされた木と枝を見つけたので す。冬の間に伐採されたものらしく 葉もつけていません。枝は、あまり細くありません。太さ2cmほどの枝を削ってみると これまでの木と違いスイスイ削れます。「これこれ!この感じよ。」求めていた柔らかさにやっと出会えました。  近くの畑で仕事をしていらっしゃる方に木の持ち主を聞き、早速訊ねていきました。そして無事枝を確保することが出来たのです。
 
  その木が「コブシ」だったのです。  コブシは、枝の一番細い部分を輪切りにすると中が空洞です。そのために細い部分でも2mmほどの太さになるのでしょう。幹を輪切りにすると年輪の中心が白くなっています。木目はあまり目立たず、アイボリーからグレーに近い色です。皮は、薄く工作しているとペロッとはげ落ちることもあります。コブシという名前は、蕾が拳に似ていることから この名前が付いたそうです。春先に拳が一本一本指を開いたような白い花を咲かせます。
 コブシは、春の花があまりにも印象的で、私は、他の季節のコブシを意識したことありませんでした。そこで改めて夏のコブシを捜してみると、大きな葉っぱをつけた 緑のきれいな木でした。
   
  ところで コブシ以外には、どんな木が柔らかいのでしょうか?。この文章を書いている最中 ある集まりがあり そこに集まった人々に「柔らかい木というと どんな木を思い浮かべますか。」と聞いてみたところ ある女性から「松」と言う答えが帰ってきました。  んー。実に含みの多い答えです。柔らかいといえば柔らかいけれど ナイフで削る柔らかさとは、少し違う。他に「桐」「朴」「桂」「柳」という意見がありました。「桐」は確かに柔らかい。もし、その時、桐が手に入っていたら使ったかも知れない。「朴(ほお)」という意見があります。朴は、版木に使用されたり、彫刻用教材などでよく使用される。目の詰まった木で彫刻上級者向きの素材ではないでしょうか。「桂」は朴ほど硬くない。しっとりと柔らかい素材ですが、枝や幹の表面をそのまま使うなら 皮をむく必要がありそうです。「柳」は使ったことがありませんが、爪楊枝になるのだからきっと柔らかいに違いありません。どなたか柳の木を伐採されたら、少し分けてくださいませんか。
 
  さて その時、ひと通り話がはずんだ後、「シマヅ、それでこの話の落ちは、なんなの?」といわれて、「ごめんなさい、落ちは、ないんです。」と言ってしまいましたがこんな落ちは?
「コブシなんて木は、拳というぐらい硬そうな名前ですが 拳の中は、実に柔らかいんですよ。」??

  落ちませんね。

    
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