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ノミの仕立て

2001.04

 現在のNARIの制作スタイルは、「叩きノミで彫る」。だから作品の表面はノミ痕が鱗のようにつく。このノミ痕の元である「叩きノミ」について うだうだ書きます。

タイトルに「ノミの仕立て」と書いてありますが、「仕立て」とは、「使えるようにする。」「そのものにする。つまりノミにする」という意味です。
「そんじゃなにかい。ノミは、買ってきてすぐは、ノミじゃないのかい?ノミを買ってきてもすぐ使えないのかい?」と言われそうですが、 「使えないと言うわけでも ノミじゃないという訳でもないんですが、色々やった方が使いやすくなるんです。」 と言いたいのです。
 ノミのみno−mi、ノミにはいろんな種類がありますが 鑿は、玄翁(金槌)で叩いて木に穴を開けたり、削ったりします。玄翁で叩かない鑿もあってそれは、突き鑿といいますが、私の使う鑿は、殆ど「叩きのみ」で今回は、叩きのみの仕立てです。

 「それで、その叩きノミをどうすんですか?シマヅは、ちょっと前置きが長いよ。」

叩きノミと突きノミの違いは、分かり易い。木の持ち手(木柄)の端に金属の輪(桂)がついている物を「叩きノミ」。桂のついていないノミは、「突きノミ」。「叩きノミの仕立て」とは、その桂をちゃんと木柄にはめ込むことです。

「桂って、買ったときにちゃんとはめ込んであるんじゃないの?」

 殆どのノミは、桂がちゃんとはまっていないようです。なぜならそれは、ノミを手に入れた人の仕事だから。ちゃんとはまっているかどうかは、ノミの桂を見れば分かります。まさに「桂をちゃんとはめる。」が今回の内容です。

 はい、そんなわけで、怪我しないように注意しながら しっかりと桂をはめ込みました。
  そもそも叩きノミは、なぜ桂をはめ込むのでしょうか。それは、木柄の頭を玄翁で叩いたとき、桂が柄頭をしっかりと締め付けて柄頭が割れないようにするためです。
 柄頭は、とにかくガンガン叩かれます。10分も叩き続けると、ノミの刃先は当然のこと叩かれる柄頭も 熱くなります。ノミを叩くときは、木柄だけを叩きたいのです。そのために 木柄の先を1〜2mm桂から出します。なぜそうするのかというと 桂を一緒に叩くとキンキン音がして気持ち悪い。それに桂を叩くと桂が変形して、柄頭にうまく入っていかないのです。
 実は ノミの柄頭は、玄翁で叩かれてほんの少しずつ摩耗します。その減った分ずつ桂が柄の中に入るように 桂の内側の角を丸ヤスリで丸くするのです。もし桂の角が木柄に引っかかってしまうと桂が入っていけず、木柄だけが減って ノミを叩いたとき桂を叩いて桂は変形し、キンキン痛くて、桂がはずれてしまって、柄頭が割れたりして 要するに気持ちよく仕事できません。ノミを叩くときは、「コンコン」と言う音でなければいけません。「キンキン」「パンパン」では仕事にならない。

 叩きノミは、玄翁で叩いた衝撃が木柄から首を通じて刃先に伝わり、刃に当たっている木を彫ります。ノミの木柄は、玄翁の衝撃をちょうどいい感じで刃先へ伝える役目をします。これが金属だったりすると柄頭が変形したり、叩き続けて熱くなって持てなかったり、そもそも重いのです。

 ノミを買っても取扱説明書が付いていないので、ノミの仕立てなんて知らない人がほとんどです。私も知りませんでした。しかし、東京都小平市の「S州屋」という金物屋で私は、十数年前ノミの仕立てを教わりました。きっと「S州屋」の親父は、今でも若い人がノミを買いに行くと、「桂の付け方を知ってるか?」と聞くに違いありません。聞かれた青年は、「え、桂ってこれでいいんじゃないんですか?」と聞き返します。「だめだよ!桂は、自分でつけ直さないと。」そういって、親父さんは、青年の目の前で桂をつけ始めるのです。

 そのうち「S州屋」特集を作りたくなるぐらいその親父は、道具にうるさい人です。そして親切な人です。


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